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ハンツピィの宴2015

オンライン編

宴前日 夕方

こんな安定しない日の羊は体毛がうねって大変そうだ、とストレートの黒髪をいじりながらペコラは窓の向こうを眺めている。
今にも降り出しそうな曇り空のためお客さんは誰も来ない。
いっそ閉めてしまおうか。
商売人らしくない考えがペコラの脳内をよぎった。
#空想の街 #メェメェ雑貨屋


宴前日 深夜

(あぁ、もうこんな時間…)
ペコラは大きく伸びをした。
ペコラ印の羊のバッグチャームはこの時期になるとなぜか売れる。誰かが宴で告白したときに持っていたとかいないとかで、それから若い娘さんたちがこの時期に買うのだ。
今年は欲深に多めに作ろうか、と思う。
#空想の街 #メェメェ雑貨屋


宴当日 朝

朝、パンの入った籠からドライフルーツたっぷりのパンを取り出し、食べたい分だけを切り出す。
キアロの作るパンは甘さ控えめだからバターが良く合う。
今夜はハンツピィの宴だ。
早めにポムの星を貰いに行かないと宴に合う洋服に時間がかかる。
優柔不断なのだ。
#空想の街 #メェメェ雑貨屋


宴当日 夕方

ペコラは羊に憧れている。
ぼんやりと草を食んでいる姿が可愛い。
だから、ハンピツィの宴には率先して参加する。
このときだけは獣の耳が生える。
いつもつけている羊の角のカチューシャがとびきり似合うときなのだ。
しかし、今回も残念ながら違っていた。
毛先が茶色のウサギの耳だった。
#空想の街


宴当日 会場にて

きのこたっぷりのシチュー鍋を抱えて宴の会場に入る。
まだ始まってそんなに時間が経っていないのに出来上がっている参加者も少なくはない。
「ペコラ!」
キョロキョロしていると小さくて丸い半月形の耳が生えたルッチが手を振る。
その向こうには尖った耳のアランとキアロがいる。
#空想の街

「こっちこっち!」
ルッチに呼ばれて彼らの茣蓙へと上がらせてもらう。
キアロ特製のサンドイッチと誰からか貰ってきた唐揚げやピザなどが並んでいた。
「ペコラはシチュー?」
「そうよ。秋のきのこで作ったの」
鍋を茣蓙の上に置いたペコラは斜めかけの鞄から深い紙皿を取り出した。
#空想の街

3人にシチューを振る舞っていると面識のない住人たちに声をかけられ、それぞれの持ち寄りと交換していく。
「ごちそうだな!」
「だね!」
アランとルッチはご満悦な様子であれこれに手を伸ばす。
いつもなら愛しそうに弟たちを見ているはずのキアロの視線が彷徨っている。
#空想の街

「誰か探してるの?」
「別に」
「フラウラお嬢様ならお友達と一緒だったわよ」
「なんでフラウラの名前が出るんだよっ」
淡い明かりが灯っているだけの空間だからキアロの顔色は読めないけれど赤いのは間違いない。
そんな兄の姿に弟たちはクスクスと笑う。
「ここにいましたか」
#空想の街

ピクニックのバスケットを携えたフラウラが「こんばんは」と会釈する。
「フラウラ…」
「フラウラお嬢様…」
キアロとペコラは彼女の姿に言葉を失う。
その反応に彼女は「おかしいでしょうか」と尋ねた。
彼女の耳は可愛らしいウサギでも猫でも犬でもなく黄色い耳――リスザルのものだった。
#空想の街

「結構気に入っているんですよ、これ」
丸い耳を撫でるフラウラ。
ポムの星は本当に予測がつかない。
似合う耳を選んでくれたらいいのに。
彼女がこれでいいと思うならそれでいいか、とペコラは思ってピザを頬張った。
誰が作ったのか塩気が強く、飲み物が手放せない味だった。
#空想の街

今年の宴もとても賑やかだった。
キアロも酒の勢いを借りてフラウラと話に花を咲かせ、少し距離が縮まったように見える。
ペコラはキアロにフラウラを送るように言い、自分はアランたちを連れて会場を後にする。
「キアロとフラウラが付き合えばいいのにね」
「付き合うんじゃないか?」
#空想の街

ルッチとアランは兄の恋を応援している。
「お兄さんを取られて寂しいとかないの?」
素朴な疑問をぶつけるとふたりとも双眸をパチパチとさせた。
「んー、寂しいって思わないなぁ。
俺たちのために人生犠牲にしてほしくないし」
「キアロって意外といい加減だから、しっかり者の彼女が必要」
#空想の街

弟たちの予想外にしっかりとした考えにペコラは驚いた。
キアロのいい加減さは「意外」ではないけれど。
「来年はキアロのパンとフラウラお嬢様のジャムで美味しいフルーツサンドが食べられたらいいわね」
「俺はペコラのシチューが食べたい!」
「俺も俺も!」
#空想の街

最初は肉が少ないだの言っていたくせに最終的には気に入ったようだ。
子どもたちはぴょんぴょんと飛ぶ。
これからの季節、シチューが美味しくなっていく。
店で常備しておくのもいいかもしれない。
つい、商売のことを考えてしまってペコラは苦笑した。
#空想の街

追い越す住人たちからもシチューを褒められ、だんだん満更ではない自分がいる。
「今度はカブと鶏団子のシチューにしようか…。ほら、着いたよ。明日から学校だから夜更かししないようにね」
3人の家の前に到着するとペコラはふたりの頭を撫でた。
ふたりは素直に返事をして扉を開ける。
#空想の街

「おやすみ」
「ペコラ、おやすみ」
「おやすみ、ふたりとも」
ペコラは挨拶をして帰路へ戻る。
まだまだ賑やかな気配がするけれど、空を見ると満天の星がキラキラと輝いている。
今年も羊にはなれなかったけれどキラキラと眩しいものをいっぱい見ることができた。
それでいい。
それで充分だ。
#空想の街


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